R55 終の棲家のリノベーション

2025/11/06
- カテゴリ:社長のヒトコト
- 書いた人:由良 俊也(代表取締役)
開口部から差し入る太陽に土埃が舞った。丹波市某所。
解体工事を終えて次の工程を待つ束の間の日々は、
何もかも透き通ってしまいそうな肌寒い朝を繰り返していた。
築後、百年を経ているかと思われるこの家だが、
今、大きく手心が加えられようというのだ。
週末ごとに家人は荷物の移動や処分に慌ただしい。
時代物の家財や調度品、アンティークな楽器などを運び出す所作は、
まるで儚い影絵のようだった。
懐かしみを浮かべたその眼差しには、
朽葉でさえも鮮やかな秋の色に染まって見えただろう。
そんな施主の様子に比べると、この家のなんと悠揚迫らざる風合なのだろうか。
…やさしい顔をしている。
私はそんな気がしていた。
一連の作業を見おろす煤呆けた梁のその柔らかな表情が、
そっと差し伸べた手で柱を撫でる施主の仕草をやさしく見守っている。
父であり母であり、時に友のように寄り添ってきた家なのだ。
秋の向こうから、終の住処と誰かが呟いた。
豊かな間暇を持て余して生きるこれからの人生に胸を焦がしながら、そっと。








